公的年金ハンドブック 公的年金ハンドブック 2026 EDITION
制度の概要と種類 / 第1章 公的年金ハンドブック — 解説編

日本の年金制度の構造:国民年金と厚生年金

日本の公的年金制度は、国民全員が加入する「国民年金(基礎年金)」を土台とし、会社員や公務員が上乗せで加入する「厚生年金」が重なる多層構造を特徴としています。この仕組みは、すべての国民に最低限の生活保障を提供しつつ、現役時代の報酬に応じた保障を追加することを目的としています。自分がどの区分に属し、どのような保障の対象となっているのかを整理することは、将来の生活設計を考える上での基礎知識となります。

年金制度の資料が並ぶ図書館の閲覧室
第1図 — 制度の多層構造 撮影:国立国会図書館
§01

2階建て構造の概念

日本の年金制度を理解する上で最も重要なキーワード。

日本の年金制度を理解する上で最も重要なキーワードが「2階建て構造」です。1階部分は「国民年金」で、20歳以上60歳未満の日本居住者全員が加入義務を持ちます。2階部分は「厚生年金」で、主に給与所得者が加入し、1階部分に上乗せして支給されます。

さらに、企業独自の企業年金や個人で加入するiDeCoなどは「3階部分」と呼ばれ、任意で備えを厚くする役割を担っています。この3層構造により、基礎的な保障を全国民で共有しつつ、就業形態や個人の選択に応じて上乗せの保障を設計できる仕組みとなっています。

公的年金の3層構造 — 模式図
3階

企業年金・iDeCo等(任意)

個人の選択で上乗せする保障

2階

厚生年金(会社員・公務員)

報酬に応じた上乗せ年金

1階

国民年金(基礎年金)— 全国民共通

20歳以上60歳未満の全員が加入

§02

被保険者区分の対象と特徴

公的年金制度では、就業形態に応じて「第1号」「第2号」「第3号」の3つの被保険者区分が定められています。それぞれの区分により、保険料の納付方法と将来受け取れる年金の範囲が異なります。

1

第1号被保険者

自営業者、農業・漁業者、学生、無職の方などが分類されます。保険料は一律の定額制で、自身で納付書や口座振替を通じて納める必要があります。

対象 自営業・農漁業・学生・無職

納付 定額制・自身で納付

受給 老齢基礎年金(1階部分のみ)

将来の年金は基本的に老齢基礎年金のみとなるため、付加年金や国民年金基金といった上乗せの仕組みを検討する対象となることが多いのが特徴です。

2

第2号被保険者

会社員や公務員など、厚生年金保険の適用を受けている事業所に勤務する人が該当します。保険料は給与から天引き(労使折半)され、国民年金の保険料もその中に含まれています。

対象 会社員・公務員

納付 給与天引き・労使折半

受給 老齢基礎年金+老齢厚生年金

将来は老齢基礎年金に加えて、現役時代の収入に応じた老齢厚生年金を受け取ることができます。加入手続きは勤務先が行うため、本人が意識的に納付手続きを行う必要は通常ありません。

3

第3号被保険者

第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者が該当します。年収が130万円未満(一定の規模の企業では106万円未満)であることなどの条件を満たす必要があります。

対象 第2号の扶養配偶者

納付 個別納付不要

受給 老齢基礎年金のみ

最大の特徴は、個別に保険料を納める必要がないにもかかわらず、国民年金(基礎年金)の受給資格を得られる点です。ただし、将来受け取れるのは基礎年金のみであり、厚生年金部分は含まれません。

年金記録が記載された台帳の撮影

第2図 — 基礎年金番号の記録管理

§03

社会保険の適用拡大の影響

近年の法改正により、短時間労働者(パート・アルバイト)への厚生年金の適用範囲が順次拡大されています。従来は第3号被保険者であったり、第1号として国民年金のみに加入していたりした方でも、勤務時間や収入、企業の規模によっては厚生年金(第2号)への加入が義務付けられるようになっています。

これにより将来の年金額が増えるメリットがある一方、現役時の手取り額に影響を与えることになります。自身の勤務条件が適用拡大の対象かどうかを把握しておくことが、生活設計上の重要な確認事項となります。

§04

基礎年金番号の役割

すべての加入者には1人1番号の「基礎年金番号」が割り当てられています。転職や退職、結婚などで被保険者区分が変わっても、この番号は一生変わりません。以前は「年金手帳」によって管理されていましたが、現在は「基礎年金番号通知書」へと切り替わっています。

この番号によって、複数の職歴や期間が統合され、一元的に年金記録が管理されています。就職先や市区町村の窓口で番号を提示することで、過去の加入記録が引き継がれ、将来の受給額計算の基礎となります。

§05

年金財源の構成要素

年金の支払いに充てられる財源は、現役世代が納める「保険料」だけではありません。基礎年金の半分は「国庫負担(税金)」によって賄われており、残りは現役世代の保険料と、これまで積み立てられてきた「年金積立金」の運用益などで構成されています。

この多角的な財源構成により、経済状況の変動に対する制度の安定性が図られています。保険料収入だけでなく、税金と積立金の運用という複数の柱で支えることで、単一の財源に依存しない安定性を確保している点が制度の重要な特徴です。

§06

賦課方式と世代間扶養

日本の年金制度は、その時々の現役世代が納める保険料で高齢者世代を支える「賦課(ふか)方式」を基本としています。自分が将来受け取る年金を自分で積み立てる「積立方式」とは異なり、インフレなどで貨幣価値が変動しても、その時の現役世代の賃金水準に応じた年金額を維持しやすいというメリットがあります。

一方で、少子高齢化の影響を直接的に受ける仕組みでもあります。現役世代の人口に対して受給世代の人口が相対的に増加する構造変化は、保険料負担と受給水準の双方に影響を与える要因となります。

賦課方式と積立方式の比較

賦課方式(日本の現行制度)

  • 現役世代の保険料で高齢者世代の年金を支える
  • インフレ時も賃金水準に応じた年金額を維持しやすい
  • 少子高齢化の影響を直接的に受ける

積立方式(参考)

  • 自分の保険料を積み立て、将来自分が受け取る
  • 世代間の人口バランスに直接的な影響を受けない
  • インフレ等で貨幣価値が変動すると実質額が変動する
§07

厚生年金の報酬比例部分

厚生年金の大きな特徴は、現役時代の給与や賞与の額に応じて将来の受給額が決まる「報酬比例」という仕組みです。高い保険料を納めた人には、それに見合った高い年金額が保障されます。

これにより、現役時の生活水準と引退後の生活水準との乖離を抑える役割を果たしています。国民年金(1階部分)が全員に共通の基礎保障を提供するのに対し、厚生年金(2階部分)は個人の就業実績を反映した上乗せ保障を加えることで、よりきめ細かな生活保障を実現しています。

また、厚生年金には配偶者がいる場合の「家族手当」的な性質を持つ加給年金などの仕組みも存在します。一定の条件を満たす配偶者がいる受給者に対し、年金額に上乗せが行われることで、世帯単位での生活保障を補強する設計となっています。

報酬比例の仕組み — 構成要素

標準報酬月額

月給の額を一定の等級に区分したもの。保険料算定の基礎となる。

標準賞与額

賞与(ボーナス)の額。月給とは別途に記録され、将来の年金額に反映される。

加給年金

一定条件の配偶者がいる受給者に加算される上乗せ部分。

乗率

報酬額に乗じて年金額を算出する割合。生年月日により異なる。

§08

被保険者区分の変更手続き

就職、退職、結婚、配偶者の退職など、人生の節目で被保険者区分は変化します。第2号から第1号になる場合(退職時など)や、第3号から第1号になる場合は、市区町村の窓口などで自身で手続きを行う必要があります。

01

就職・転職時

勤務先が手続きを行い、第1号または第3号から第2号へ区分が変更。本人の窓口手続きは通常不要。

02

退職時

第2号から第1号(または第3号)へ変更。市区町村の窓口で自身の手続きが必要。期限内の届出が重要。

03

結婚・配偶者の就退職時

扶養関係の変化により第3号と第1号の間で区分が変わる。配偶者の就職・退職に応じた確認が必要。

04

届出の重要性

手続きを怠ると未納期間が発生し、将来の受給額だけでなく障害年金などの受給資格にも影響を及ぼす。